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落葉の上に浮かぶ 「僕らが建てる森の小屋」
風に吹かれてガサガサとした音を奏でる落葉の絨毯の上に、まるで宙に浮いているかのように佇む小屋は、建築家の二俣さんが設計したもの。
鹿児島県霧島市の郊外、ゆっくりと時間が流れるような森の中に建築されたその小屋は、「僕らが建てる森の小屋」と名付けられている。
それは大人たちが、子どもたちと一緒になって遊ぶために建てた秘密基地なのだ。
鹿児島県霧島市の郊外、生まれ育った実家に隣接するちいさな森に、吉田さんの小屋がひっそりと建っている。
かつては養豚業を営んでいたという祖父が、放牧場として利用していたというその土地は、面積にして約400坪。何十年も前から放置されてきたことから、今ではまるで自然に生まれた森のように、木々が自由に枝先を伸ばしている。
毎年秋になると地面を覆い尽くすように落葉の絨毯が出来上がる。風が吹くと乾いた落ち葉が擦りあって、ガサガサという音が聞こえてくる。
そんな光景を見て、「ここに小屋があったら」と思いついたのは、吉田さんの友人でもある建築家の二俣(ふたつまた)さんだ。
鹿児島市内で住宅の設計を営む傍ら、趣味のフライフィッシングでは大会で優勝するほどの腕前。もうひとつの趣味であるキャンプは、独自で設計した道具ブランド「アドベンチャリズムハンター: レ・モ」を主宰する。好きな事になると、何にでも夢中になってしまう凝り性な性格は、優れたクリエイターであるという証ともいえる。
二俣さんが設計したその小屋は、吉田さんとその家族を含めた数人で月に2回休みを利用して建築、延べ15日間、合計半年ほどの期間を費やしてゆっくりと組み上げられた。
休みの日になるたび、時に真剣に、そして時々遊びながら完成した小屋は、やがて「僕らが建てる森の小屋」と名付けられた。
躯体は地面に単管パイプを差し込んだ基礎の上に、いわゆる木造軸組構造で建築されている。柱と梁で支えられ、そこに杉板を張っただけのシンプルなものだが、森で遊ぶための小屋には十分だ。二俣さんによると、単管パイプ製の基礎は陽が陰りはじめると、まるで空中に小屋が浮いているように見える効果もあるという。
小屋へは正面に2つある窓の片側を持ち上げて出入りする。断熱材は仕込んでいないが、これまた二俣さんが設計した薪ストーブを設置したことで真冬でも暖かい。
取材に訪れた日は、室内にオルガンも設置されていた。吉田さんの愛娘・まーちゃんが、そのオルガンを弾き始めると、森の中に優しい音色が流れはじめる。1曲弾き終わると、お母さんが「上手くなったねぇ~」と満面の笑みで娘の肩を抱き寄せる。外ではパチパチと音を立てながら、男たちが焚き火を囲む。
そんな風景を覗き見ることができた。 外界から途絶されたような森の中で、ひっそりと佇む小屋。それは、まるで子どものような大人たちが、森の景観を楽しむために企てた秘密基地のようだ。
CONTACT_アカツキ建築設計
WEB_http://akatsuki-sekkei.com
PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2022
SOURCE|小屋 ちいさな家の豊かな暮らし Vol.6
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